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読書の記録

小林泰三「忌憶」

忌憶忌憶
小林 泰三

角川書店 2007-03
asin:4043470088

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大学中退しアルバイトも上手くいかない青年の心は、夢とも現実ともわからぬ奇怪な思い出に占領されていく。ほか書き下ろしニ編を含むホラー連作集。
「奇憶」どことなく諸星大二郎テイストの、歪む記憶がおぞましくも美しい傑作。これは同タイトルで祥伝社400円文庫シリーズの一冊として刊行された「奇憶
奇憶
」の再録。あからさまでないクトゥルー神話大系の効かせかたなど絶妙で悪夢的描写が光る。
だが、書き下ろしの二作はいただけない。コミカルなグロテスク描写はあるもののオチが容易に想像のつく一発ネタもので、巻頭作とのレヴェル差はなはだしいものがある。世界の深さ、アイディアの新奇さ、キャラクターの書き込みの全てにおいて巻頭作に遠く及ばないと言わざるをえない。
 共通の登場人物を用いて連作の形式を採ってはいるが、世界のトーンに連続性はなく、無理に連作にしない方が良かったのではないかというのが私の正直な感想だ。言葉が過ぎるかもしれないが、素晴らしかった「奇憶」にとってつけたかのような蛇足の話を併録したことで、絶望的に美しい世界観が損なわれてしまったようにさえ感じた。