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読書の記録

太田忠司「忌品」

忌品 (トクマ・ノベルズ)忌品 (トクマ・ノベルズ)
太田 忠司

徳間書店 2006-08
asin:4198507112

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 物にまつわる怪奇現象を描いたホラー短編集。

「眼鏡」老眼になった男が父の眼鏡をかけると…。本人が嫌だったら地獄だが、学術面では理想的な現象かもしれない。親子とはいえ、他人の眼鏡は度があっていないのでかけない方が無難ですな。
「口紅」仲睦まじい夫婦に憧れる看護師だが。一番の謎が解かれないのにモヤモヤ。オチはホラーらしいやね。
「靴」失った娘が履かぬまま遺した靴に、心傷める男だが。男の弱さと女の図太さの対比が際立つ作品。
「ホームページ」一通のメールから始まる恐怖。主人公の設定が巧い。これは不審なメールは開かずに消すネット中級者では起こり得ない話なので。
「携帯電話」携帯電話を拾った男が味わう歓喜と悲哀。ふつうならば気持ち悪いので警察に渡すかその場に置いていくと思うのだが、貧乏ゆえにそうせざるを得なかった…んだろうな。
「スケッチブック」普通の子がいきなり殺人者になる理由とは。うわ、ヤバい設定!!でも意表をつく展開が面白かった。
「万華鏡」魚座の人間には芸術的才能があるという。耽美かつ官能的な作品だが、初出の媒体を見て納得。ああ、中身が知りたい。
「手紙」死期の迫った作家が家族にしたためた手紙。ラストの遊び心にニヤリ。
エロティック・ホラーが多いのに下卑た印象にならないのは美意識のせいだろう。遺された謎が多くじれったくもあるが、あれこれ真相を想像するのもまた一興。