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読書の記録

三崎亜記「失われた町」

失われた町失われた町
三崎 亜記

集英社 2006-11
asin:4087748308

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 ある町に住む住人たちが忽然と消え去る現象が発生。人類が町の消滅に抗うすべはあるのか?消滅と戦う人々の姿を描く。

 少なくとも、今まで読んだ三崎作品の中ではこれが最高。いわゆる人間ドラマとして面白く読んだ。
 各所で言われているとおり、SFとしては信じられない設定…町が住人の意識までもを支配してしまう、とか、消滅した町の文字や写真を見るだけでも汚染(文字は印刷なのに、なんでなのだ?)されてしまうとか、リアルには受け取れない内容が多々あるんだが、それでもオハナシとして面白いのでその辺のリアリティは問わないことにする。
 主役が次々移り変わるのだが、ヒロインが呼び捨てな場合と「さん」付けの場合があったので、実は誰かの固定視点なのか?とかんぐったらハズレた。なんとなく、なのだろうか。
 美点と欠点が隣り合わせの物語では、ある。世界が狭いと言ってしまえばそれまでだが、登場人物が輪でつながっていく仕掛けは読んでいて楽しい。
 けっこう色濃く村上春樹ちっくではあるが、アノ人とあのひとの恋愛ストーリーはスリリングだ。
 ただ、不可思議なありえぬ設定…(だいたい、人間が区分したにすぎぬ町という境界を、忠実に守って消滅が起きるってどういうこと?町に意志があるとしたら誰の意志?)は、謎解きされぬまま終わるのでそこはちょっと歯がゆくもある。
 現実のメタファとするなら、それこそ事故や事件や病気や、納得いかない理由によりあっけなく理不尽に大切ないのちは奪われてしまう。我々が、自分としてこの世に存在できる時間は想像するより限られたものなのだ。だから運命と戦え、知力を尽くせ、恋人を愛せ。そんなことを、不条理の象徴たる「町の消滅」を通して語っているのかもしれないと思った。

p.s.人々の頭からどんどん記憶が消えていく小川洋子「密やかな結晶」密やかな結晶だとか、消えた友人を探して不可思議な世界の洗礼を受ける村上春樹羊をめぐる冒険羊をめぐる冒険〈上〉が好きな人にオススメ。