加納朋子「モノレールねこ」
モノレールねこ 加納 朋子 文藝春秋 2006-11 asin:4163255109 Amazonで詳しく見る |
ちょっとせつなくて、あたたかい短編集。無理にジャンルわけすれば身近な謎系ミステリーと言えなくもないが、ちょっと不思議ないい話というのが一番近いかもしれない。
表題作は、モノレールねこと名づけられたデブ猫が結ぶ縁。結末についてはそこそこ予想がついたけれど、甘酸っぱい味わいが清涼感残す。
「パズルの中の犬」母子の葛藤、そのヒントは犬だった。なにもパズルの中から現れなくても…と思うが、あたたかい話である。
「マイ・フーリッシュ・アンクル」突然おじと二人きりになってしまった少女。おじは腐ってもおじだった、といういい話。
「シンデレラのお城」偽装結婚した男女だが…。ううん、これは怖い。ホラーだと思う。闘わない優しさがあるのだろうけれど、闘ってほしかった気もする。
「セイムタイム・ネクストイヤー」亡き娘を偲ぶ母が訪れる先は…。アンソロジー「黄昏ホテル」で既読だった。ちょっと設定に無理があるけれど、いい話ではある。
「ちょうちょう」ラーメン店を開店してはみたが、ピンチがやってくる。これもいい話。ネットのくだりに関しては、読書界にも当てはまることだと感じた。
「ポトスの樹」ダメオヤジの見せる意外な一面に息子は…。直球の感動モノ。実際にダメオヤジを持っている身としては、現実こんなに甘くないよね〜とシラケてしまったりもするのだが、文句のつけようのないくらいいいお話、である。
「バルタン最期の日」こどもにつかまったザリガニが目撃する人生模様。おおっ、ここまではいい話だけどちょっとなんだかね…と醒めた目で読んでしまっていたけれど、これはツボにどきゅんと来たっ!この話を読むだけでも、本書を読んだかいがありました。
HIGH−LOWSの「Do!! The★MUSTANG」収録の曲、「ザリガニ」と合わせて読んでみたい。
いい話というのは、文句がつけづらいのである。なぜならいい話を糾弾すればした人が悪人扱いになってしまうからだ。本書もいい話、優しい人が不器用に生きる話が多くて読後感は良いのであるが、その良さの中に苦味の針が一本あとをひくのが好みの分かれ目かと思う。文章の軽妙洒脱、おしゃれで読みやすくユーモアセンス抜群なところは素晴らしかった。