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読書の記録

明野照葉「澪つくし」

澪つくし
明野 照葉著
文芸春秋 (2006.5)
ISBN:4163248803
価格 : \2,000

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せつない恐怖短編集。
 

私と明野作品との出会いは、ハルキホラー文庫で出された
「棲家」オンライン書店ビーケーワン:棲家2001.8
だった。無機物であるはずの家に、徐々に侵されていくヒロインに
おののいたものである。
そして本作は、最近サイコサスペンスをあらわすことの多かった著者が
ひさびさに純粋ホラーに回帰したと思われる1冊で、「棲家」で味わった
のと同種の興奮が再び甦った。
 

「かっぱタクシー」
タクシー運転手の男が味わう恐怖。
リアルな×イ×ホラー。“そういうひと”に対して我々は根元的な恐怖を
持っている。なぜなら“そう”なってしまった人は理解不能であるし、
意思疎通も出来ないからだ。でも最大の理由は、いつ何時、我々も
そちら側の住人になりかねないという恐怖であろう。

 
「三途BAR」
亡き恋人をしのぶ女だが。
これは怖くない。だが面白い。とても危険なネタであるのだが、
闇に身をゆだねてしまいたくなる瞬間は、誰しもあろう。

 
ジェリーフィッシュ
くらげと呼ばれる青年は、ある日海で…。
無邪気な残酷を描いている作品。この程度の罰では、あいつらには
物足りないね。著者の作品で何度か出ている“血族”のモチーフが
本作にも見られる。
 

「つむじ風」
引っ越し先に何か陰気なものを感じる主婦だが…。
夫の方が、なぜそこまで激しく郷土芸能に関心を持つのかちょっと
疑問に思った。怪の出現シーンは淡々としていて煽らないのが
かえってリアルに感じられ、効果的だと思う。
 

「石室」
とあるマンションを仮の宿にした夫婦だが…。
前半はこの本すごい傑作、と思ったのだけどここに来てややパワーダウンか。
端正でクラッシックな幽霊譚だがちょっと印象が弱い。
場所と霊のモチーフが直前の「つむじ風」とかぶるからそう感じるだけ
だろうか。
 

「彼岸橋」
よそ者があの橋を渡ってはいけない理由とは。
これも惜しい。設定は良いし、状況はたまらなく怖いものがあるのに、
主人公が読者の共感を越えてオーバーヒートしているので恐怖を体感
出来ず残念。
あからさまに考えがヘンだからなあ、主人公…。
 

「雨女」
兄嫁の異様なふるまい、その理由とは…。
普通に考えてこういうヨメがいたらそれはただのイッちゃってる人な
わけだが、ホラーなのでオカルティックに面白くまとめている。
 

澪つくし
兄嫁が、忘れ形見である娘を預けると言うが。
「雨女」のその後。島での具体的なエピソードが明かされればもっと
エキサイティングになったと思うのだが、敢えて語りすぎずに抑えたのかも
しれない。