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読書の記録

芦辺拓「少年は探偵を夢見る 森江春策クロニクル」

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森江探偵はいかにして名探偵となりしか?
若き日の活躍が明かされる連作集。


「少年探偵はキネオラマの夢を見る」
怪しい館に迷い込んだ森江少年を襲う怪奇とは。
ネタは見当がついてしまうのだけれど、乱歩のジュブナイルものを
彷彿とさせるレトロなムード。


「幽鬼魔荘殺人事件と13号室の謎」
ありえない部屋で起きた殺人とは。
これも、薄々そんなことではないのかなーと想像がつくが、
懐かしの「殺人喜劇の13人」を彷彿とさせる凝った文体が愉しい!


「滝警部補自身の事件」
とある密室殺人事件に斬新な解釈を加える大学生・森江だが。
思考の盲点を突く構図が快い。
この作品は単品というより、あの悲劇の直前の出来事、
平穏な日々の終わりを示していて感慨深い。


「街角の断頭台」
仮名文字新聞記者時代の森江がギロチン殺人の謎を追う。
ちょっぴり鮎川哲也のアリバイトリックものを連想させるレトロな印象で、
これまたトリックが予測出来てしまうのだが、ムードを楽しんだ。


「時空を征服した男」
タイムマシンによる犯罪?森江の推理は。
本書の中では最も奇想ほとばしるように思える。
ただラストの味付けは付いて行ける人とそうでない人で好みが分かれそうだ。
残念ながら私は後者の方かなあ。
ただ、バラバラに見えた短編を、本作により束ねてみせるところは驚かされた。


本書は単発のミステリー作品集としてより、森江春策ファンブックと
しての意味合いが強いように、私には思えた。
巻末には著作リスト、および事件を年度順に配列した
「年譜・森江春策事件簿」が収録されており、森江探偵の縦横無尽の
活躍を整理するのにお役立ち、森江ファン必携の書と言えるだろう。