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読書の記録

ジーン・ウルフ「デス博士の島その他の物語 訳・浅倉久志ほか」

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著者による「まえがき」付きのSF作品集。
 

表題作は、ある有名な作品がオマージュされていて、私くらいの年頃の
読者には懐かしい空気を感じさせるのではないか。
少年の孤独にデス博士が応えるた言葉は、本好きならば首肯すること
請け合い。 


「アイランド博士の死」
管理された世界に閉じ込められた少年ニコラス。
前作が悲しみの中にもひとかけら希望を残すのに対し、本作は実に苦い
味わいだ。それは体制側の価値観が、読者の多くが感情移入するであろう
ニコラスのそれとは真逆であるがゆえの苦味みだ。
情や思い入れを廃せば、全てが丸く収まったのかもしれない。
だがそこには人間性はない。
意志や感情に配慮しているように見せかけて、合理性のみから成る
怪物神は弱者を道具として利用しているだけだから。
好きではないが、忘れ難き印象を残す作品である。


「死の島の博士」
アルヴァードは囚人として長い時を過ごし…。これは難解だなあ。
主人公の精神状態のせいもあるのか、イメージがつかみにくい。


アメリカの七夜」
変わり果てたアメリカを旅する男。フリークス趣味色濃い作品。
貧困国を金と武力に物言わせて闊歩する主人公は、増長しただけの
しっぺ返しを食らうことになる。
恋愛&官能要素からむ内容でタニス・リー好きにお薦めかな。
はっきり描写のない部分がもどかしくもあるが、
この曖昧さこそを味わうべきか。


「眼閃の奇蹟」
盲目の少年ティブの不思議な冒険。
近未来が舞台なのにどこか既視感があるのは、古今東西の文学からの
オマージュがあるからだろう。


以上読んできて、不思議な魅力を湛えてはいるがオブラートに
何重にも包んだかのような表現に消化不良を起こしてしまった。
一番好きなのは「まえがき」だったという…。


p.s.期待していたのだが、合わなかったと言う他はない。
クラッシック音楽を聴いて、感動する人もあれば眠くなる人も
あるようなものだろう。