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読書の記録

アゴタ・クリストフ「文盲 堀茂樹・訳」

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あの「悪童日記オンライン書店ビーケーワン:悪童日記2001.5著者の自伝。
読書に親しみ兄や弟と過ごした幼き日々、難民として国外脱走したこと、
そして母国語ではなく敵国語を読み書きせねばならなくなった事情など、
鋭い感性で日々のことが綴られていく。 


半生を時間経過ではなしに、著者にとって大切だったり重苦しかったり
する時期にスポットを当てていくつくりなので、まるで実際に目の前に
いる人から自分語りを聞いているかのような、異様な臨場感を覚えた。 


私が印象的だったのは、、国境を越えて亡命する時の記憶が不確かだと
記述のある「記憶」の章。著者ほどではないが、私も一時期人生の
修羅場のようなことがあり、今その時のことを思い出そうとしても、
ただ生きていたとしかわからない。そういうことって、本当にあるのだ。
大変すぎると、脳が過負荷を避けるためにその時期の記憶を安易に
取り出せぬようしまい込むのかもしれない。そこにシンパシーを抱いた。


p.s.訳者解説によると、著者は前作を超えるものでなければ
執筆する意味がないとして、著作業から離れておられるとのこと。
この偉大な才能を持つ作家の新作がもはや読めぬとは、残念な
ことである。