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読書の記録

エリザベス・コストヴァ「ヒストリアン」Ⅰ・Ⅱ


ヒストリアン 1
エリザベス・コストヴァ著 / 高瀬 素子訳
日本放送出版協会 (2006.2)
ISBN:414005493X
価格 :1,785円

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ヒストリアン 2
エリザベス・コストヴァ著 / 高瀬 素子訳
日本放送出版協会 (2006.2)
ISBN:4140054948
価格 :1,785円

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聡明な少女が父の書斎で見つけたのは、古い革装本と
「親愛なる、そして不運なるわが後継者へ」そんな不吉な出だしの
手紙だった。それについて尋ねたところ、父は暗鬱な表情を浮かべ…。
 
ホラー・サスペンス。著者はこれがデビュー作とのこと、
それにしては娘の現在(それも語り手からすれば過去なのだが)と、
父の過去とが絶妙なヒキでもって交互に進行していくところなど上手い
と思う。でも。
 
でも、文句言わして?
本書は書店のPOPにて、
『(ダ・ヴィンチ・コードと比べたくなる)十倍すごい、十倍深い』
なんて宣伝文句で売られているわけなのだが、それは違うだろうと。
背景から宗教、習俗、設定に至るまでもめ事の種になるまで事実を
元ネタにしたあちらダ・ヴィンチ・コード ヴィジュアル愛蔵版
ダ・ヴィンチ・コード ヴィジュアル愛蔵版

(ダ・ヴィンチ・コード)が
現実に立脚したサスペンス・エンターテインメントだったのに対し、
本作はオカルトホラーなのである。
話題のベストセラー「ダ・ヴィンチ・コード」と絡めて売りたい
気持ちはわかるが、ジャンル違いの本を比較するのはどうかなと思う。
 

そして本作、かなりストレスフルでもある。
ヒロインの父も、父の恩師もやけにもったいぶってなかなか話が
進まないのだ。どうやら、情報を小出しにするのは受け手が
ショックを受けないための配慮らしいのだが、
気の短いいらちな私はいいからさっさと話してくれ!
なぜ思わせぶりなところでいつも話をやめるのだ!
学者だったら論文のサマリーのつもりで要約してみろ!
と苛々してしまうのだった。短気な読者には、向かない話なのかもしれん。
 
なんでポールは世界的に有名なあの本を
執拗に図書館で借りようとするのか、
本屋で買えばいいではないか、
彼は苦学生で節約してんのか、
それとも彼の住む街には書店がないのか?等々、
ツッコミ所満載。
ダ・ヴィンチ・コード」と本書に類似点があるとしたら、
誰もが知る有名な歴史がネタなのと、翻訳物であることぐらいだ。 


上巻はじれったさと都合良さに往生したのだが、
探求と追跡中心の下巻はそこそこ楽しめた。
男女ペアで史跡を巡るところは確かに「ダ・ヴィンチ・コード」に
似た趣があるか。
 
しかし不満なのは、これはもう好みの問題だが、各国の人々や建物の
描写は素敵であるものの、肝心要の彼、すなわち「D」の描写が大変
少ないことだ。彼が何をしたいかも、一応説明されてはいるが、
なんともまだるっこしいと言うかアンビバレンツというか、
一体調べて欲しいの欲しくないの、どっち!という感じである。
時間だけはたっぷりある彼だからなあ、ひまつぶしに戯れていた
だけかもしれんが。彼がなぜそういう存在なのかの説明はさらりとしてて、
納得し難い。
 
家族を想う心と絆は美しいだけに、「D」の設定が既存の創作物を
忠実になぞるのみであることや、解かれぬ謎(というか、口頭で強引な
説明しておしまいだと、私はちょっと待て、
ほんとにそうかそれでいいのか?と思っちゃうんだな)
が多々あるところは私には残念に思えた。

p.s.売り方間違えてると思う。全米No.1ならそれで押せばいい。
ダ・ヴィンチ・コード」と比較するからリアリティに不満が
出るのであって、最初からロマンティックホラーミステリーとして
売り出せば良いのにと思う。