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読書の記録

伊坂幸太郎「終末のフール」

終末のフール
伊坂 幸太郎著
集英社 (2006.3)
ISBN:4087748030
価格 : 1,470円

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世界がもし、あと数年で終わってしまうとしたら…パニックによる
暴力の嵐を耐え抜き、その日を待つ人々を描く連作短編集。
 

仙台のとあるマンションに暮らす人々が主人公。
家を出た娘とひさびさに再会する老夫婦「終末のフール」、
新たな命に対する責任に悩みつつ草サッカーをする「太陽のシール」、
意外な展開を見せる復讐劇「籠城のビール」、
ちょっとのんびりした女の子の話「冬眠のガール」、
世界が終わるとしても格闘男「鋼鉄のウール」、
男同士の友情「天体のヨール」、
幸せのために演じる女性「演劇のオール」、
変人の父が光る「深海のポール」を収録。


著者あとがきによると、あと何年で地球に何々が衝突、
などという予言はまずありえないのだそう。でも、創作として
魅力的なシチュエーションなので気にしない。
 

この物語の素敵なところは、投げやりになったり激情に襲われて
愚行に走る人ではなく、タイムリミットが切られたとしても、
日々こつこつと生きてゆく人たちが描かれているところ。
悲しい行動を選ぶ人もいるけれど、でも、終末まで彼らは真面目で
あることをやめない。真剣に、生きる上で大切なことを考え続ける
彼らの姿勢に、人生の貴重さ、いとおしさを覚えた。


個人的にお気に入りなのは、ありえない展開だとは思うが
人の良心を問う「篭城のビール」、
損な性格のヒロインがあまりに可愛い「冬眠のガール」。

きらきらと心に残って輝く、素敵な言葉も幾つか拾えて満足した。


p.s.同じく天体による最後の日をテーマとし、
本作とは逆に激情のままパニックになる人々の恐怖を描く
伊藤潤二のマンガ「地獄星レミナ地獄星レミナもおすすめ。