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読書の記録

吉来駿作「キタイ」

 

キタイ
吉来 駿作著
幻冬舎 (2006.1)
ISBN:4344011007
価格 : 1,680円

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許我町の葛西家が所有する森は「死にながらの森」と呼ばれ
恐れられていた。そこである儀式を行った高校生達は、
18年後に蘇った死者としか思えない男に出会う。

 
第6回ホラーサスペンス大賞受賞作(賞は最終回)。
これはおぞましい!死者の復活というモチーフが充分不気味であるのに、
真相のさらなるグロテスク度の加速には、ホラー好きとして嬉しい
悲鳴を上げたくなるほど。確かに一つ一つ部分を取ってみれば、
どこかで見たような設定ではあるのだが、パッチワークの腕の良さゆえ
全体として緊迫感あるホラーに仕上がっており、好感が持てる。
 
途中に挿入された18年前の青春物語…フカチの不器用な恋、
フカチと葛西との友情がのちに起きる悲劇を盛り上げる。
賞の選考時から加筆・訂正がされているのかもしれないが、
各自に起きた現象の個人差については、作中の説明で納得出来なくも
ないと思う(加害者の気まぐれ、もしくはオイシイ相手ほど後にとって
おいたのかもしれないし)。

 
私が見逃せない違和感は、本作が描写をおどろおどろしくしようと
するあまり、葛西に意味の無い行動をさせているところだ。
葛西の目的は明らかだ。だが彼が××を死体から切り取らねば
ならない理由はなぜ?彼の目的は、死者の××では果たされない
というのに。単なる葛西の異常性癖ならば、そういう趣味だと
納得する他はないが…。彼が知性を残したまま非道な行いをする
という点がこの物語の恐怖を促進させていると感じたので、
不可解な小ネタが混じるのは残念だ。
 

あとこれは些細なことだが、現場での簡単な死体検視で、
警察官が足りない内部パーツがあると見破るのは少々無理があると
思った。しかし、これらの欠点を差し引いても、
本書はホラー・エンターテインメントとしては良く出来ている。
欲を言えば、葛西の心境の変化についてもうちょっ書き込んで
欲しいところだが、それをするのは最早文学の領域かもしれない。


なぜ18年後なのかが伏線になっているところが巧い。普通であれば、
高校時代の出来事を三十路過ぎても引きずっているなんて
世界が狭すぎると思うところだが、なるほど彼らは半ば人生から隠遁し、
引きこもっていたのだから無理もないのだった。


p.s.ラストで、あの人物が取った選択に私は賛成出来ない。
心情的には理解出来るし、もし自分であれば同じ行動を取って
しまうかもしれない。だが、それでもあの人には過去を断ち切って
日の当たる途を歩んで欲しかった。