西澤保彦「キス」
森奈津子シリーズ第三作にして、初の短編集、だそう。
「なつこ、孤島に囚われ。」2000.11
は数百冊にのぼる積ん読のどこかに埋もれているはずだが、
「両性具有迷宮」2005.3
と共に未読のままいきなり本書を読んでしまった。
それはリアル書店の店頭でつい本書を手にしてしまったせいである。
帰宅してPCの前でbk1で商品リンク作ろうとして、紹介文を見て
シリーズであったとわかった…なるほど著者あとがきを見れば
シリーズであると公言されているが、パッと見わからなかったねえ。
近頃の本の帯は、なぜ何作目って大きく書いてくれないのだろうか。
実在の作家・森氏をモデルとしたエロかっこいいヒロインの活躍するシリーズ、
という解釈でよいのだろうか?前置きが長くなったが中身にふれたい。
「勃って逝け、乙女のもとへ」
突飛な方法で回春を願う男。
私からすると共感出来ないのだが、おっさんの妄想炸裂といった趣。
そんならそんでかまわないけれども、萌えのモチーフがノン・シリーズの
前作「フェティッシュ」2005.10
とかぶるのがどうもねー。
「うらがえし」
美少年を誘惑する熟女。虚実入り乱れ、メビウスの輪か「クラインの壷」か。
心理サスペンス・ミステリーとしては、サプライズがあるかも。
「キス」
かつてキスを交わした梨緒ちゃんを蘇らせたい…願いとその代償とは。
科学的な描写と情動とのバランスがよくないように感じるのだが、
有り得ないくせに爽やかなラストは嫌いになれない。
「方舟は冬の国へ」2004.8
みたいなテイストに、弱いのよね私って。
「舞踏会の夜」
シロクマ宇宙人が小説を書いた?
これがどれも、作中の編集者の指摘通りで、つまらなかったゴメンと
言う他はなく。シリーズを通して読んでないんで、私が約束事を飲み込めて
ないだけかもしれないけど。
著者あとがきから邪推するに、読者を愉しませるというよりは、
著者の方に表さねばならない愛着があったのではなかろうか?
作品を通してリサという名の何か意味ありげな人物が繰り返し
出て来るのだが、その意味するところもよくわからなかった。
シリーズ通して読めばわかるのかしらん。
それとも深い特別な意味はなかったりして?
メタ構造がどうたらと論じるには格好の作品集かもしれないけれど、
私には楽しみどころがよくわからないのであった。