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読書の記録

海堂尊「チーム・バチスタの栄光」

チーム・バチスタの栄光
海堂 尊著
宝島社 (2006.2)
ISBN:4796650792
価格 :1,680円

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東城大学病院の万年講師・田口はいきなり病院長に呼び出され、
病院のエース「チーム・バチスタ」の術中死調査を依頼される。
これは事故か、それとも殺人なのか?!
 
このミステリーがすごい!』大賞受賞作だが、実に完成度の高い作品。
これなら乱歩賞もイケたのでは。
出世には縁がないが、心には正義の灯ともす主人公・田口には素直に
好感が持てるし、食えない高崎病院長を始めとして脇役一人ひとりに
至るまで味があるのだ。キャラ立ちのみに終わらず、プロットも見事である。
前半・後半で聞き取りが繰り返されるのを単調と観る書評家もあるが、
私は質問者により表れ出でるペルソナの変化に目をみはったので退屈は
感じなかった。
なによりすごいのが、大学病院に息づく魅力的な人々。
かつては大学病院にいたことのある私から見ても大変にリアルだ
(なるほど著者は現役の医師らしい!)。
私が読書中感じた疑問は、現実に手術成功率100%ということはあり得ないのに、
たとえ3例術死が続いたとしても即座に[事故か殺人か?]と調査に
乗り出すものだろうか、という点。
だが著者は、ここに漫画の世界から飛び出したかのようなエリート
天才外科医・桐生を配することによって、読者の疑問を退けてみせる。
あと真犯人の動機はやや抽象的に思われるかもしれないが、その世界に
身をおいた者なら想像は出来る(許されることではないが)。
ただ一つ欠点があるとすれば、田口の動物知識が不足していて比喩が
やや不正確(例えば柴犬は猪狩りの猟犬にもなる犬なので、
あの人のイメージにはしっくり来ない、etc.)なことが挙げられるが、
たいしたキズではないだろう。
名探偵役の白鳥はそれらしく癖のある憎めない困ったちゃんで、
本作一作で使い捨てるには惜しいキャラ。再登場を期待したい!

p.s.白鳥の切り札でもあったアレについては
柳原三佳「死因究明」死因究明―葬られた真実2005.09が詳しい。