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読書の記録

ダニエル・キイス「タッチ」

タッチ
ダニエル・キイス著 / 秋津 知子訳
早川書房 (2005.12)
ISBN:4152086882
価格 :1,680円
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妊娠をロマンチックなものととらえる妻・カレンは、
科学的に思考する夫・バーニーと気持ちのすれ違いを感じていた。
そんな時、バーニーは職場で事故にあった同僚から放射性物質をつけられて
しまい、帰宅した彼からカレンにも被害が。そして、皮肉にもカレンの妊娠発覚。
夫婦の行く末はいかに。
新作かと思ったら、1968年に出された作品なんだそう。
深いテーマなのだが、読後なんとも不完全燃焼な気分になった。
カレンは現実を見つめず夢見がちな女性だし、
バーニーも創作に打ち込んで現実から逃げているようにしか思えない…
夫婦二人が現実から解離したような感じのせいだろうか。
 
あと、展開にリアルを感じないこともある。二人をかきまわしてゆく
カレンの姉の存在意義も私にはよくわからないし、その姉に誘われて
バーニーが訪ねるアウトサイダー・アーティストたちは出来すぎていて、
いかにも頭で創ったような印象だ(私が知らないだけで、そんなアウト
サイダーアーティストが実在してたらごめんね)。
カレン&バーニー夫婦から放射能汚染が起こるのでは…と非科学的な
思いこみでパニックになる街の人々の反応はリアルだったが、
バーニーの切り抜け方がなんともよくあるエンタメ映画的。
そしてラストも、出来すぎていてピンと来なかったのだった。

私は本書で何が不満だったのか?それは向き合わない夫婦にあるだろう。
事故が原因で互いに周囲から疎外された二人は、
協力し信頼しあうのではなく、距離をとって暮らし続けるのである。
そこにおかしな概念にカブレた姉…バーニーがかつて恋していた人、
が乱入するので、私のような読者にはついていけなくなる。
夫婦愛なら夫婦の関係を深く描いてほしいと思うのだが…このように、
お互い避け続けても決定的には離れられないのが夫婦、
ということなのだろうか。