読書日記PNU屋

読書の記録

菅浩江「おまかせハウスの人々」

おまかせハウスの人々
菅 浩江著
講談社 (2005.11)
ISBN:4062131498
価格 :1,575円
通常24時間以内に発送します。
Amazonで見る

 
近未来、ロボットがもっと身近になった時代…
人々はやはり、寂しかった。ちょっぴりメランコリックな短編集。
 
最初に掲載されている「純也の事例」がストレートな親子の
愛情モノだったので、感動路線なのかなぁと思ったら、
その他の作品はスパイスがきいていて苦みのあるムード。
機械を肯定するでも否定するでもなく、もう昔には戻れぬぐらい
便利かつ複雑化してしまった社会に苦しみながら生きる人々の
哀愁を描いているようだ。
 
興味深かったのが「ナノマシン・ソリチュード」。
医学でのナノマシンはこの作品のレベルほどではないが、現実に
実行段階に入っているので未来にはこんなことも起こりうる
かもしれない。「純也の事例」と直接のつながりはないが、
同じようにマシンへの人の想いをテーマにしているところが面白い。
 
SF的の設定よりもむしろ、苦悩あふれる人間関係に目を見張るのが
「フード病」、「おまかせハウスの人々」であった。
「フード病」は今も我々を悩ませる食の問題を扱う。
ここに出てくる病は現実の疾病をかなりデフォルメしてあるものの、
食の安全などもはやないことを知ってしまった現代人には身に
つまされる内容。表題作は設定こそ「フード病」とは異なるが、
やはり人間関係のいざこざ、肥大した自我の描写がリアル。
 
その他の作品はビターすぎて私の好みではなかった。
漫画「鉄腕アトム」のような未来への希望はもはやない時代に
生きるには、こんな人類の終焉とほんのちょっぴりの希望を
感じさせるような、ダークな短編集が合っているのかもしれないが。