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読書の記録

三崎亜記「となり町戦争」

となり町戦争
三崎 亜記著
集英社 (2005.1)
ISBN:4087747409
価格 :1,470円
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町の広報が、となり町との開戦を伝えて来た。
となり町戦争とは、いったい?
著者デヴュー作にしてたいへん巷での評判の良い作品であるが、
私には幾つかの理由で受け入れられなかった。
 
ひとつ。主人公がその町に2年も住んでいながら、あまりにものを
知らなさすぎるのが不自然。これがいきなり遠方から引っ越してきた
とかいうのならば、まだ理解出来るのだが。TVは見ないという
主人公(男性)が世俗に疎いのは理解出来るが、彼はそこそこの
活字中毒でもあるようだし、職場に行けば話題も出るんじゃないか?
果たしてそこまで何も知らないでいることが可能なのか?
 
そして、主人公の自堕落な態度。自堕落な、というのは言葉が過ぎる
かもしれないが、戦争ってなんだろう?と疑問を何度も呈する割に、
ネット検索しようとしない。どうやらこの町には図書館もあるらしいのに。
とにかく主人公は何もしたがらない。好奇心は持っているようなのに、
めんどくさがりなのか流れにただただひたすら身をまかせるのみなのだ
(そのくせ、据え膳はちゃっかり食う)。
この主人公が、全然好きになれなかった。
 
まあ、設定がいろいろヘンなのだ。それがSFだからとかファンタシィ
だからというのではなくて、納得がいかない感じのヘン、
都合の良い変なので、私には受け入れられないのだった。
 
そこら辺の違和感を、まあシュール文学のお約束だから、と飲み込める人
でもないと、読者にとってこの作品は浮いて感じられてしまう。
それはまさしく、「となり町戦争」の渦中にありながらかばわれ
楽な作業だけを分担させられ、戦争を実感出来ない主人公の胸中、
世界との解離感覚に似ているかもしれない。
 
資本主義にひそむ悪魔をいぶり出すメタファとしての読み方をすれば
良かったのか?私は好きじゃないのだが、
いきなり男女が同棲させられるというシチュエーション・ラヴストーリー
として読むには美しいかもしれない。
 
ここで使われている「戦争」という言葉は、
遠藤徹「姉飼」

の「姉」が現実の「sister」ではなかったように、
「war」ではないのだ。
そこが私(潔癖性と呼ばれてもいい)には、どうしようもなく合わなかった。

p.s.どうしてもゆるせなかったのは、これを読む前日に
木村元彦オシムの言葉オンライン書店ビーケーワン:オシムの言葉2005.12
を読んでいて、その戦争のあまりな爪痕、
強大さに恐れおののいた後であったので、この程度できゃあきゃあ
言ってんじゃないわよ、と思ってしまったのかもしれない。
しかし、フィクションのデヴュー作をノンフィクションと比べたら
可哀想かな。