読書日記PNU屋

読書の記録

道尾秀介「向日葵の咲かない夏」

オンライン書店ビーケーワン:向日葵の咲かない夏2005.11新潮社\1,680
 

多発する犬猫殺し。ミチオはクラスメートのS君の死体を見つけて
しまう。逃げ帰るミチオのもとにやって来たのは、生まれ変わった
S君だった…?
眩暈を呼ぶホラー・サスペンス。
私はこの著者のデヴュー作「背の眼」のこじつけっぽい展開に
何じゃこりゃ、とついてゆけなかったのだが、ある尊敬する作家さんの
日記で読んでみたい本として本書が取り上げられていたので、
手にとってみた。
新人にしてはよどみない文章で、破格に読みやすい。
しかし、描写にはわざとなのかわかりにくさが横溢し、荒書きのような
部分が気になってしまうのも事実。
ムードとしては、桐生祐狩「夏の滴」のような少年ホラーだ。
ああいうじめじめとした厭〜な雰囲気(注:ホラー的には褒め言葉)
がただよっており、ダークで救い無き話を読みたいならばオススメ。
あちら(「夏の滴」)ほどの崩壊感は無いが。
 
物語の全てはラストのサプライズのために存在し、細かい伏線の回収
などは問題ではないのか、読んでいて力業で押し切られるような
若干の不快感を伴った。
物語として読んだ時には不満もあるが、サプライズ至上主義ならば
満足されるかもしれない。サプライズのために仕掛けられたズルを
赦せるかどうかが、本書を気に入るかどうかの分かれ目になりそうだ。
文句を言いつつも、癖になる苦みを持った作品であったので、
次回作には注目しておきたい。

p.s.私がいちばん面白く思ったのは、作中作(?)の
「悪い王さま」だった。あれはイカス。