読書日記PNU屋

読書の記録

田中啓文「落下する緑 永見緋太郎の事件簿」

オンライン書店ビーケーワン:落下する緑2005.11東京創元社\1,890
 

存在が自由なサックス奏者・永見緋太郎が、身近な謎を
ひょうひょうと解く!ミステリー。
 
いやぁこれは面白い!もともと私が田中啓文作品好きというのも
あるのだが、ダジャレオチが無くてもイケる、クールでありながら
要所要所にほろりと人情の効いた、素敵なお味の一品である。
読み終えるのが勿体ないほどであった。
 
この居心地の良さは、永見緋太郎という天才の造形によるところが
大きいだろう。探偵役・永見は頭がよいのに真っ正直、気取らず
大胆発言をするかと思えば他人の痛みがわかるオトコである。
読めば、語り手・唐さんと同じく永見のパーソナリティに
惚れ込んでしまうだろう。永見のさっそうとした魅力を唐さんが
渋く引き立てるのもミソである。
 
そして本作を彩るのはジャズ。著者の美しい文体、リズムとテンポは
ジャズからきたるものか。著者によるジャズのうんちくも盛り込まれて
いるのだが、そちら方面に疎い私でも充分面白く読めた。
ジャズを聴いたことがほとんどない私ですら興味をかきたてられたほどで、
ジャズファンならばもっと深く愉しめる本かもしれない。
章の終わりには、ジャズ名盤ガイドもついていて貴重。

p.s.章タイトルおよび装丁も絶品であった。