読書日記PNU屋

読書の記録

中村文則「土の中の子供」

オンライン書店ビーケーワン:土の中の子供2005.7新潮社\1,260
 

芥川賞受賞の表題作含む、さすらう孤独な魂をえがく二篇を収録。
 
「土の中の子供」義理の親から暴力を受け続けた「私」は
恐怖を感じることに憑かれてゆく。
 
母性を強調した女性キャラ(白湯子)の古めかしさ、
かゆいところに微妙に手が届かないかのような、
わかるようでわからない「私」の心情などにやきもきもするが、
心にキズもつ男女の暮らしは不思議にやさしい。
救いは安易すぎるようにも思えるのだが、血に呪われた子が
自らの力で生きられるようになるまでの過程は感動的。
 
ただ不満なのは、恐怖を求める主人公の心の描写をもっと入れて
ほしかったこと。「私」にもわからないことだからこそ厄介なの
かもしれないが…。なぜだかわからないと言いつつさすらう主人公は、
その生い立ちを知れば同情しなければならないのだろうが、
その行動は傍から見れば滑稽にも見えて来てしまう。
 
主人公の目から見た世界などは感覚的な描写がいきいきとしていたが、
人物造形・ストーリーに新鮮さは感じられなかった。
 

「蜘蛛の声」橋の下に住む青年。ここはなんと快適なのか。
…橋の下が、快適なわけがない。川沿いの風の強さったらないし、
人血を求める昆虫どもが不快であるはずだからだ。
だから、最初に青年が“橋の下が快適”と思うところですでに
この小説のリアリティは損なわれ、本来ならばサプライズとなる
はずのオチが冒頭ですでに想像出来てしまうということだ。
 
読んでみても予想通りの結末だったわけだが、こういう種類の作品は
過去に数多く名作がものされており(島村洋子「×れ×くひ×」etc.)
この作品における先行作を超える何かは私には感じられなかった。

p.s.二篇とも、ムシを粉々になるまでつぶすシーンが出て
くるけれど、何か恨みでも??