読書日記PNU屋

読書の記録

太田忠司「月読」

オンライン書店ビーケーワン:月読2005.1文芸春秋\1,950


人が死ぬと、「月導」なるものを遺す世界。
「月導」には死にゆく者の最期の言葉が秘められており、
それを読めるのは「月読」だけであった。
姪を殺された刑事、母子の葛藤、自殺した若者たち…と月が支配する
世界は死と退廃の色濃い影に覆われている…。
 
少しだけ現実と異なる「月導」のある世界、その設定が魅力的で
強く惹きつけられた。死者の想いがかたちとなって残る世界だなんて。
もしも自分がそこの住人であったら、どのような「月導」を遺すの
であろうか、読者の誰もが想像してしまうことだろう。
 
しかし、その後の展開がなんだか陳腐で、TVの二時間サスペンス
ドラマを見ているかのようだった。複数のシナリオが同時進行していく
のだが、それが相乗効果をあげたとは言い難く…どれも不完全燃焼で
終わってしまったような。中〜後半にかけて、いみじくも主要登場人物の
一人が自嘲している通りに、キャラクターがみんな思慮の浅い行動を
とるのでドタバタした雰囲気になってしまうのである。
それが楽しいドタバタならば読者として歓迎もしたいが、これが
筋書きのために無理のある行動を取っているようにしか見えず、残念だった。
せっかくのサプライズもひねりを感じず…へー、そうですか、ふーん
としか思えず。途中で予想出来てしまう真相もなんだかね。
それならそれで、もうちょっと彼女たちの関係にせまるとかしてくれたら
ドロドロしてもっと面白くなったかもね…。