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読書の記録

荻原浩「さよならバースディ」

オンライン書店ビーケーワン:さよならバースディ2005.7集英社\1,680


東京霊長類研究所に心理学者として勤務する真は、
恋人でもある同僚とともにある研究に着手していた。
目標はバースディと名付けられたピグミーチンパンジーに、
言葉を覚えさせて人間との会話を可能にすること。
しかし、恋人は謎の死を遂げてしまう。真相を知っているのは、
バースディだけ?
 
せつない恋愛ミステリー。まるで人間の幼児のように、
やんちゃなバースディがなんとも可愛らしい。それだけに、彼の処遇に
ついてはいまいち納得がいかない面があるのだが、真がいち一般民である
以上は、あれが最良の選択なのだろうか。いい方に学者バカな真と、
ピュアでシンプルなバースディの描写が光るゆえに、世俗人の醜い
エゴがあぶり出されていく。
 
憧れの女性の変死に衝撃を受ける男性陣の哀惜や葛藤やあれこれが
ひしひしと胸を打つつくり。特にクライマックスのシーンでは、
感情を揺さぶられる会話が待っている。
 
猿(チンパンジー)をテーマにしたミステリでは
北川歩実「猿の証言」猿の証言
という傑作があるのだが、今回はそちらほどの衝撃はないものの、
恋愛要素を巧く絡めることによりせつない上質のサスペンスミステリーに
仕上がったのではないかと思う。