読書日記PNU屋

読書の記録

シオドア・スタージョン「輝く断片」

オンライン書店ビーケーワン:輝く断片2005.6河出書房新社\1,995


スタージョン短編集である。河出書房新社から刊行されたSF短編集
「不思議のひと触れ」はすごく面白く思える話とピンとこない話が
(あくまで私には、であるが)半々だったので、長らく食指を
伸ばさないでいたのだが、ふと手にした「ヴィーナス・プラスX」が素晴らしく、
再読してみる気になった。
 
ああもう、知性の足りないヤツとか思われてもいいよ。しょーがない。
この本、わかりません。楽しめた数本の作品以外は(あくまで私には、だが)、
考えオチというかヒネリがきつくて難解な作品と、オチはこうなるんだろうなぁ
と予想付くのに、主役の異常心理でひっぱる作品が多いように感じられたのだ。
 
SFよりも広義のミステリーもしくはサスペンス寄りの作品集であり、
あっけなさ(これを華麗でショッキングであると見れば評価が高いだろう)
にも通じる展開の唐突さは読者の好みが大いに分かれそう(それとも私だけか?)。
 
「取り替え子」金のため、赤ん坊を必要としているカップルの前に不思議な
赤ん坊が現れ…。これは好み。妖精によるとりかえっ子は海外民話で多く
見られるモチーフ。パーシーのふてぶてしいが憎めないところがいい。
愛されると…という設定は、スタージョン・オリジナルなのか
そういう伝承があるのか知りたいところ(私が読んだ奇譚集では、
とりかえっ子は足に油をぬり、火を付けて泣かすと妖精が人間の残虐さに
脅えて本当の赤ん坊を返しに来ると言われていた)。
 
「ミドリザルとの情事」変わった男を保護した夫婦。
ミドリザルがなぜミドリザルなのかが徐々に明らかになっていくのだが、
妻の心理が唐突に感じられて入り込めず。一発ギャグだからこれでいいのか???
鈍感な善人である男に、ずっと不満が降り積もっていたのかね、妻。
 
「旅する巌」すばらしい小説を書いた新人が、次回作をなかなか書いてくれない。
エージェントは彼に会いに行くが…。これも好き。エージェントと秘書の
やりとりが楽しい。実はホラーなオチだと感じるのは気のせい?
 
「君微笑めば」他社への共感が欠落した冷酷な男が、こだわっている秘密とは。
これはオチが読めてしまって残念なのだが、それは本作がクラシックだから
こそで、あとの時代に続く作品にパクられたりオマージュされたりして
いったせいかもしれない。時代を考えると革新的作品なのだろうが今では
よくあるタイプの話。
 
「ニュースの時間です」ニュースに執着する男が、妻からニュースを禁止され…。
なぜかは全くわからないまま、物語は進んでいく。他者から見たら無価値なものも、
当事者には命と同等なものだったりするという価値観の問題?
奇妙な迫力はあるのだが、面白いかと言われると首をひねる怪作。
 
「マエストロを殺せ」才能あふれるスターのラッチをフルークは殺したいと願う。
 これも好み。音楽的なことは全然わからないけど。ラッチとフルークの
絶望的なすれ違い関係がすごい。ラストがピンと来なかったのだが、
長編ミステリーにしてもいけそうなネタだった。

「ルウェリンの犯罪」善人扱いされるのがガマンならないルウェリンは、
犯罪を犯そうと努力する。これは女と男の追いかけっこが楽しいのだけれど、
やはり時代の波を感じる。筋書きが或る程度予測出来てしまうところが残念。
 
「輝く断片」重傷を負った女を拾った男。この出血量じゃ、ふつう死ぬだろ〜
などと思いながら読む。やはり典型と見える展開で読むのがしんどいだが、
時代を考えればすごいのだろう。
 
以上読んできて、風変わりな考え方をする主役たちが多かったので状況を
理解するのに時間を要した。スタージョン入門者よりか、
ファンでいろいろな作風を楽しみたい人向けなのかな。
編訳者の「解説」からは作品への大きな愛情が伝わって来た。