読書日記PNU屋

読書の記録

角田光代「この本が、世界に存在することに」

オンライン書店ビーケーワン:この本が、世界に存在することに2005.5メディアファクトリー\1,470

本と、本好きにまつわる物語を収録した、本好きのための短編集。
「旅する本」「だれか」「手紙」「彼と私の本棚」「不幸の種」
「引き出しの奥」「ミツザワ書店」「さがしもの」「初バレンタイン」
「あとがきエッセイ 交際履歴」を収録。
 
これは良い本だ!しみじみと浸ってしまった。
唯一「引き出しの奥」のヒロインには相容れないものを感じたけれど。
どれもまあ、いい話である。恋愛に偏向した話が多めなきらいはあるが、
本を愛する人なら共感すること請け合いの本である。
 
とくに気に入ったものを挙げてみる。
「手紙」は趣味こそはよくないのだが、“うつる”ところが可笑しくって
笑えた。
「彼と私の本棚」のように、好きな人が本好きだったときの喜び、
そして好みを比べる楽しさがいい。それはビターに終わってしまうのだが、
人生の思い出のように本の思い出も共有され、ひょっとすると本の
それの方がより長く残りそうな気もする。

「さがしもの」はファンタジックだが、入手困難な本を探す気持ちに
じいんと痺れた。
 
そして「あとがきエッセイ」。私は友人の少ない子供で、
家庭は不和であったから本だけがお友達だった。イヌもお友達だったのだが、
この子は幼くして病で逝ってしまい、私はひとりぼっちで本を読んでいた。
そのままなんとなく大人になり、運良く文学部出の、本を読むダンナを
つかまえて結婚し、アルバイト代を本に費やす暮らしをしている。
 
なぜそんなに本が好きか、それは著者もエッセイで言及しているとおりで、
私も小さい頃にトリコになったからだろう。小さい頃に本から受けた衝撃は
大きなものだった。いじめっ子や親のケンカも本を読めば極彩色に
塗りつぶされる。空想に遊ぶ愉しみを教えてくれたのは、本だった。
だから今日も私は、あの素晴らしい感覚を求めて本のページを開くのである。