読書日記PNU屋

読書の記録

朱川湊人「花まんま」

オンライン書店ビーケーワン:花まんま2005.4文芸春秋\1,650

 
どこか懐かしい関西を舞台にしたノスタルジック・ホラー。
せつなくも妖しい怪奇幻想短編集。  
 
不条理な迫害を傍観者から描いたのが「トカビの夜」、
当事者の目から見たのが「凍蝶」であると思うのだが、とにかくしみる。
たいした理由もなく他者を見下すことで安堵しようとする、
獣のごとき人間の愚かしさを表しているように思う。
どこか結末の読めてしまう後者よりも前者のせつなさが好みである。
 
「妖精生物」可愛い生物の裏面、無垢であるはずの少女にひそかに
宿る虐待への願望と官能を描いて恐ろしい作品。
本書で一番ホラーらしい作品なのではないだろうか。
 
「摩訶不思議」ドン・ファンの死をコメディタッチで。
男の甘えをも許容してしまう女の強さ、そしてそれを冷静に観察する
少年のしたたかさが楽しい。
 
「花まんま」生まれ変わりの記憶を持つ少女。いい話、だけど何か
ぼかされ流されてしまったような印象があり、物足りなさをおぼえる。惜しい。
 
「送りん婆」呪文をとなえる女。これは山岸凉子の名作「白眼子」とか
あの辺の超常ものが好きな人間にはたまらない作品。婆の人柄も良い。好きだ。

 
「都市伝説セピア」よりも、いっそう完成度を増したと思われる本作。
怪奇幻想文学好きならば楽しめる1冊になっていると思う。
ただし「都市伝説セピア」収録の名作「昨日公園」ほどのインパクトには無かった。
全体として粒ぞろいになり、レヴェルが上がっているとは、思うのだが…。
 
期待した「さよならの空」が退屈こそはしないものの拍子抜けの感が
あったので、本書は期待せず手にとったのだが大当たり。
高橋克彦夢枕獏の怪奇譚、山岸凉子のホラー漫画が好きな人には
超・おすすめである。
 
全編子供が主役であり(大人の回想シーンだったりもするが)、
視点を子供に据えたところも成功していると思う。子供は大人ほどの知識や
思考力は無いが、敏感な感性や繊細さがあり、しかも大人顔負けの直感力と、
弱いように見えてその実したたかさを持っているものだから。
そんな子供の目から描写された怪奇現象は、その妖しさとリアリティを増して
読者に迫ってくるように感じられる。

凄惨なシーンは多くないし、じんわりとしみいる感動物語なので
ホラーって怖くてニガテ、と言う人にもおすすめしたい。