読書日記PNU屋

読書の記録

山田詠美「風味絶佳」

オンライン書店ビーケーワン:風味絶佳2005.5文芸春秋\1,290


甘やかされる人と甘やかす人の恋物語6編を収録。
 
私の好みではなかった。賞の選考会で、小説を書く苦労を知る
小説家たちであっても票は割れる。或る程度の文章技巧の高低を
除けば、小説の評価ってつきつめたら読者個人個人の好み
でしかないのかもしれない。ステキな音楽が、
違う個人には雑音にしか聞こえないように。
 
すごくすごく楽しみにしていた本なのに、何故か読み進むうちに
私の心は苛立ってきたのである。なぜなんだろう、それは?

いろいろな恋の形を描くのかと思いきや、甘々な恋人同士だけの
世界ばかりなのだ。もちろん、世界は恋する2人だけで
成り立っているわけではないので、

妊娠したコブタちゃんだとか、
母とその幼なじみに気を遣う娘とか、
トッポいおばあちゃんに振り回される孫とか、
父親に自分と同年代の後妻と再婚されて戸惑う息子だとかに、

そのとばっちりだとかしわ寄せが行っているのだ。
私はどちらかというと、二人っきりでラヴラヴロードを突き進む
彼らにではなく、その彼らの踏み台にされたりする方の誰かさんに
シンパシーを抱いてしまうのだろう。
 
想像するに、恋したからには世間の目なんて気にしない、
常識がなによ、堂々と愛を貫いていきましょっていうのが
本書のコンセプトだと思うのだ。
べつに、高齢者の恋愛がみっともないとかカッコ悪いとか言う
つもりは、無い。ただもう少しやりようがあると思うのだ。
常識から脱して自由に生きるのは素敵だが、それによって
悩んだり困ったりする人がいても、いいんだろうか?
その辺が気になってしまった。

「ぼくは勉強ができない」が同様に一風変わった恋愛の形を
示しながらも素敵に思えたのは、主人公が高校生だからゆるせた
こともあろうし、主人公の彼は自分なりの美学を貫いて、
身内にベッタリ甘えてもたれかかったりしなかったからだと思うのだよな…。

p.s.渡辺淳一「エ・アロール」を彷彿とさせる作品集であった…。