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読書の記録

絲山秋子「逃亡くそたわけ」

逃亡くそたわけ (講談社文庫)逃亡くそたわけ (講談社文庫)
絲山 秋子

講談社 2007-08-11
asin:4062758067

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 花ちゃん(女)となごやん(男)は、精神病院から脱走する。何を求めて男女は旅行くのか…珍ロードノヴェル。
 
 「亜麻布20エレは(以下略)」で始まる、出だしがすごい。つかみ完璧。うら若き男女が精神病院を脱走すると言うのだから、どうなっちゃうの?って引きこまれてしまう。
 計画はとくにない二人なので、のんきに観光したりしつつ逃走劇は進む。ただ私が潔癖性ゆえなのか、ヒロインの考え方にどうしてもついて行けない部分があって、好きになれなかった。
 たとえば、連れが大金を持っているのにどうして物を盗むのか。モラルが欠如してしまっているようでひっかかる。また、なごやんは恋人ではないわけだが、一緒に逃げてくれるから褒美に体を与えようかしら、というヒロインの発想に私はどうもなじめない。こういう些細なことで躓かなければ、本書をおおらかに楽しめるのだろうが…。
 躁うつに苦しむヒロインの様子は実情に即しているかはさておき、読む人の心揺さぶる描写となっている。患者の助けとなるはずの薬が苦痛の原因になってしまうなど。
彼らは悲しい。魂は自由を求めても、肉体は薬でつながれているからだ。薬を気にしながらの逃避行は厳しいものになろう。
 私も専門科ではないのであくまで印象だが、ビリー・ミリガンもどきまではやりすぎではないのか。こんなに幻覚が活発であれば、花ちゃんの病気は重度の躁うつ状態というよりか、非定型のアレではないのかと思ってしまう。
 ラスト、私は〈じゃあ、今まで何のために???〉と納得がいかなかったのである。これが受け入れられるかどうかで、本書を気に入るかどうかが分かれるのではないだろうか。ヒロインを単なるワガママ者としか見られなかった私は、本書を好きになることに失敗した。