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読書の記録

宮部みゆき「日暮らし」上・下

日暮らし 上日暮らし 上
宮部 みゆき

講談社 2004-12-22
asin:4062127369

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日暮らし 下日暮らし 下
宮部 みゆき

講談社 2004-12-22
asin:4062127377

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 のんびり屋の井筒平四郎が、推理能力抜群の弓之介、記憶力抜群のおでこらと共に入り組んだ事件の謎を解く。
 
 「ぼんくら」ぼんくら〈上〉 (講談社文庫)続編の時代ミステリである本書は、前作の後味の悪さを払拭するさっぱりすっきりな物語だ。前作、ただの嫌な女でしかなかった葵のやり手ぶりや真の心根もはっきりするし、平四郎のボンヤリ加減も良い感じだし、佐吉夫婦の本気のやり取りも素敵だし、とにかく出てくる人物がみな魅力的なのである(湊屋を除く)。
 実際、孫八などの入部の悪人さえ除けば人々がみんなのんびりゆったりしているものだから、事件部分よりも日常描写の方が素敵に思えてしまうくらいだ。とくに今回、お徳さんの煮物屋の行方がたいへんに気になるところであり、その展開たるや実に小気味よく、これを読んだだけでも満腹・満足してしまいそうなほどであった。
 下巻では思わぬ人物が殺害され、容疑者として引っ立てられてしまった佐吉を救うべくみなが知恵を寄せ合うのが素晴らしい。ただ、その過程の素晴らしさにくらべ、凡庸な真相がやや見劣りするのが玉に瑕といったところだろうか。
 本作に新登場の注目株は、平四郎と好対照なす佐伯だろう。ラスト、彼からの手紙には内容の深刻さに見合わぬ茶目っ気を感じて、ついついくすりと笑わされてしまった。
 不満があるとすれば、潜在能力は高いはずなのに、いつも知略謀略にはめられまくって騒動の渦中に引きずり込まれる佐吉。佐吉を助けるために物語が進行してゆくという面があるので仕方ないところもあるが、所帯も持ったことだし、佐吉にはもうちょっとしっかりしてほしかったかな。