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読書の記録

朱川湊人「さよならの空」

さよならの空さよならの空
朱川 湊人

角川書店 2005-03-29
asin:4048735918

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 急速に広がるオゾンホール対策のため、科学者テレサはウェアジゾンという画期的な物質を作り出した。オゾンホール拡大を止めるウェアジゾンには、実は大きな副作用が…。

 直木賞候補作ともなった「都市伝説セピア」都市伝説セピア (文春文庫)。その中に収録されていた「昨日公園」という短編が私のツボだったので、本書購入を決めた。
 夕焼けを世界から無くしたテレサ博士、彼女を狙うテロリスト、夕焼けをトラウマとする少年を中心に物語は展開していく。いい話なんだけど、抑揚が無いというか、どうも前半は退屈である。複数の人物の視点が交錯するせいもあるのだが、人物のさわりを
ちょっと述べては次に移って行くので、半ばわけのわからないまま読み進めるしかないからだ。テレサの外出目的も唐突に感じられるし、キャラメルの気持ちも
今ひとつピンと来ない。 
 しかしクライマックスはさすがで、よくある展開といえばそうなのだが、“何か”に総毛立つシーンがさすがこの著者ならではの盛り上げ方で素敵だ。贅沢を言えば、どの人物の心理描写も(わざと何かの効果、たとえばクライマックスでの感情の解放を狙って抑えてあるのかもしれないが)淡々としすぎているように感じられるので、一人でも感情移入出来る人物がいればもっと楽しめただろうに…と、そこが私には少し残念であった。