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読書の記録

加藤大基・中川恵一「東大のがん治療医が癌になって」

東大のがん治療医が癌になって ああ無情の勤務医生活東大のがん治療医が癌になって ああ無情の勤務医生活
加藤 大基 中川 恵一

ロハスメディア 2007-05-25
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 東大出身で放射線科医の著者は、がん治療に携わっていたが体調不良から検査を受け肺がんが発覚する。患者の揺れ動く心を医師の目から綴ったノンフィクション。

 この本は三柱から成っている。著者のがん闘病記および人生論・共著者にして准教授によるがんの一般論と後輩医への励まし、そして病院勤務医哀史である。 順に私の印象を述べていくと実にそつのない本なので、健康な人から医学部を目指している人まで広く薦めたい。
 闘病記部分については、科学的思考をむねとする医師でありながら、つい迷信が気になったりする心の様子などが生き生きと描写されていて、引き込まれる。著者プロフィールや歴史への関心などは読者としてはあまり興味をひかれぬパートだが、この部分は著者自身が著しておきたいことだったのだろう。そんな気がする。
 続く准教授のパートは、がんに関して平易な言葉で解説するとともに、著者がどのような状況にあり、それを上司としてどうとらえたかが真摯に描かれている。何しろ、著者から准教授に宛てた退職願のメールまで載せているのだから生々しい。
 私は東大出ではないが、かつてひとときでも大学病院の現場にいた者として思うことは、著者が大変責任感のある、優秀な医師だということである。
 著者自身は謙遜しておられるが、関連病院に出向して再び大学に戻れる医師はほんのひとにぎりにすぎないのだ。大学に呼び戻され、将来を嘱望されていた医師が優秀でないわけがない。
 しかし有能な人材にこそ仕事が集中するのも世の常であって、勤務医時代の著者の疲労は厳しいものがあったと感じた。
 マスコミは産科・小児科の激務と医師不足にスポットライトを当てているが、放射線科治療医不足と医療現場の諸問題をうったえているところに、本書の意義がある。
 本書のラストは著者の生き方論であるが、古今東西の格言を自在に引用しつつ持論を展開していく著者は、単に丸暗記勉強だけをして医師になったのではないということを、強く感じさせる。
 私がもしがんになったなら、著者のような医師にかかりたいという願望をもって、この意義ある書に対する一読者のつたなき感想を閉じたい。



p.s.坂本龍馬の手紙で「風呂よりいでんとして金玉を詰めわりて死ぬる」…ってどういう状況???