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読書の記録

平山瑞穂「シュガーな俺」

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突然、重症の糖尿病であると宣告されてしまった三十路男の苦悩と受容を描くオートフィクション。

さて糖尿病には1型と2型があるのだが、主人公がどちらのタイプかは物語のポイントの一つなのでここで明かすわけにはいかない。糖尿病患者の入院の様子、治療的日常生活のあれこれがこと細かに書かれており、糖尿病治療の入門書、よき患者向けガイドとしての意義は大きいと思う。

しかし、本作を物語…小説として読んだ場合はどうか。あのデビュー作にして怪作「ラス・マンチャス通信」ラス・マンチャス通信で脳髄揺さぶったような衝撃は、幽玄の世界広がる文章の滋味は、本書ではまったく見ることができない。なんというか、文章がそっけないのだ。
闘病記だからというのは、あるだろう。だが、これがあの幻想小説の名手・平山瑞穂作品であるとの先入観を持たずに本書を読んだならば、私はこの本は流行の「人気糖尿病ブログ書籍化!」みたいな一般人の闘病日記モノだと信じ込んでしまうだろう。

そしてフィクションとはいえ、夫妻の年収まで明かす意味はあるのか。何度かはさまる浮気エピソードは必要なのか(退屈したんですけど)。

疾患を抱えて生きる努力には敬服するものの、エンターテインメントとしては、なんら見るべきところのない作品であった(私には)。

p.s.シュガー治れ、とかけているのかしら(まさかね)。