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読書の記録

絲山秋子「沖で待つ」


沖で待つ
糸山 秋子著
文芸春秋 (2006.2)
ISBN:4163248501
価格 : 1,000円

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芥川賞受賞作である表題作含むニ編を収録。


勤労感謝の日
三十六歳で未婚、バブルを経て現在無職の負け犬模様。
とほほな状況下ではあるが、ジタバタしたって仕方ないし、と悠々
生きるヒロインが格好いい!気っ風がよくて好きだ。
どこか悟ったような諦観すらただよわせているのだから、
ヒロインは大物である。生き生きとしたリズムある文体も気持ちよい。
ただ、とても文学らしいラストなんだよね。
日常をありありと切り取った手腕は見事だけれど、何かオチがあれば
もっと好みなのになぁと思う私である。


沖で待つ
会社の同期とした約束とは。
男女の性別を越えた友情が素敵な作品。
とにかく太っちゃんの性格が良いので引き込まれていく。
趣味が唐突に感じられるからなのか、ヒロインに感情移入しにくく
感じられたのだった。本作は芥川賞受賞作なのだが、文章といい
描かれた世界といいヒロインの性格といい
(私にとっては最後のが最大の要因か?)、「勤労感謝の日」の方が
好きなのだった。
しかし、しつこくなく説明口調でもなく、自然な形で回想を随所に
はさむ腕前には唸らされる。


p.s.どこか飄々とした、力みのない作風は魅力。次回作も是非読んでみたい。