読書日記PNU屋

読書の記録

鯨統一郎「庖丁人 轟桃次郎」

オンライン書店ビーケーワン:庖丁人轟桃次郎2005.10早川書房\1,785
 

桃次郎は料理屋「ふく嶋」の板前におさまったが、彼の周囲には
いつも奇怪な殺人事件が…殺人犯を“料理”するのは一体…。
 
「冥福を祈るな」「死んでゆくのはなぜか」「悪ふざけは嫌いだ」
「厭なことは忘れよう」「俺は悪魔か」「怖い人はいなくなれ」
「いつか罰があたる」を収録。
 
桃太郎侍を料理人にしてブラックバージョンにした感じというのか
(…だから「桃次郎」?!)、ワン・パターンの話が続く。
また終わり方も何というか微妙で(おそらくこれで続編は無いだろうのに、
なぜすっきりオチがつかないのか…)あった。
 
残虐な殺人があるが、刑罰は軽い→仕置き人登場、復讐遂行→料理勝負
の繰り返しなので途中でああまたか、と飽きがきてしまうかも。
殺人者に命でもってあがなわせる復讐譚として読むには、ブラックすぎて
カタルシスがない。私は創作物の中でならばスプラッタが平気で、
むしろ好んで読む方であるがそれでも今ひとつ本作からはリアリティを
感じなかった。料理対決として読むには(天才料理人同士の対決は
雁屋哲原作の漫画「美味しんぼ」の、至高と究極の決戦を彷彿とさせるが)
ディティールが不足、物足りない。
 
この作品ですごかったのは復讐シーンではなく、ごくふつうの小市民が
エゴむき出しの殺人者になすすべもなく惨く殺されていく、その迫真に
せまった描写であろう。そして驚くべきことにここで書かれた類の事件は、
実際に似たようなことが現実で起こったものばかりであって、
犯罪の残酷さに対する刑罰の軽さなど、考えさせるところもあると感じた。