読書日記PNU屋

読書の記録

島田荘司・小島正樹「天に還る舟」

 
オンライン書店ビーケーワン:天に還る舟2005.7南雲堂\966


妻の故郷、長瀞で休暇を取る刑事・中村は奇怪な死体に遭遇する。
単なる自殺と思われていたそれは、猟奇連続殺人へと発展していくのだった。
 オンライン書店ビーケーワン:火刑都市1989.7講談社\680
本作、「火刑都市」直後に起きた事件という設定らしい。
うっかりなことに、それを確認せず読み出してしまった私。
「火刑都市」未読だったのに、とにかく中村刑事が主役らしいぞ、
くらいの認識しかないまま読み終えてしまった。だから正当な評価は
出来ないかもしれない。
 
それでも敢えて言うと、昭和50年代という時代背景をさしひいても、
どこか起きる凶悪事件と不釣り合いなほどのんびりとした印象がぬぐえない。
たとえば、海老原の存在。中村の補佐役であり、探偵役でもある彼が、
キャラも立たぬうちに事件にどんどん首をつっこんでくるのだ。
いくらのどかな地方の警察とはいえ、一般人をこのように現場に出入りさせる
とは、解せぬことである。著しくリアリティを欠いてしまう。
ミステリーは遊び心が大事なのだから、一般人が事件に介入しても悪い
ということはない。しかし海老原が介入するだけの説得力を感じないし
(例:親が警視総監だとか、地元の豪族だとか)、頭脳はよいらしいことが
仄めかされるけれど、海老原は大人しすぎてあまり魅力を感じないのである。
まあそれは、御手洗など強烈な探偵と比べてということで、こちらの見方が
辛いのかもしれないが。
 
そして、この中村&海老原コンビだがいにしえの金田一くらいに役立たずな
探偵でもある。被害者がそこまで拡大したら、ボンクラ読者である私ですら
真相の予想もつこうというもの。最近の御手洗もののように名探偵が遠くに
ありて事件を止められぬならばまだわからんでもないが、被害者2人目で、
すでに明白な共通項があるのだから、警察で何故保護しないのか疑問に感じる。
気兼ねがあるとはいえ、本庁勤務の中村がそれをラスト近くまで思いつかない
のも謎。
 
実際の地理・地形を生かしたミステリとして楽しめるところもあるし、
社会派的な側面も持っている。しかし島田御大の世界観を借りてまでやる
ことであったろうか。オリジナル新キャラではいけなかったのか。
あの人がチラリと登場したりなど、ファンサーヴィス的な本ではあるが、
期待したほどのインパクトは得られなかったというのが私の感想。