読書日記PNU屋

読書の記録

沼田まほかる「九月が永遠に続けば」

オンライン書店ビーケーワン:九月が永遠に続けば2005.1新潮社\1,680

離婚を経験し、高校生の息子と二人暮らしの主婦・佐知子。
突然息子の文彦が行方をくらましてしまい、年若い恋人にも
悲劇が…いったい何が起こっているのか?!
 
ホラーサスペンス大賞第五回受賞作であり、選考委員に
よれば文章の力があるとか
(選評は同時期に幻冬舎から出版された道尾秀介
「背の眼」巻末についている)。
私もそれは否定はしない。
前半のスリルはこたえられぬものがあったし、不安に
揺れる心の描写は新人とは思えぬテクニックがあると思う。
 
私の評価が低めなのは、私の苦手な女性陵辱モチーフが
含まれていたこともあるし、著者が何を強調したかった
のかわからなかったというのもある。医学的におかしな
ところも二点ばかりあるけれど、ホラーサスペンスに
それを言うのは野暮だろうから書かないでおく。

物語は年若い恋人を持つ主婦の視点から語られるが、
この主婦が平凡な人物で魅力に乏しい。
亜沙美でも冬子でも、普通極まりないナズナであっても
佐知子よりはキャラが立っている。
 
たとえばこの物語が、ソトオリヒメに惹かれる男側の
視点から書かれていたなら。
 
たとえば、たやすく餌食にされるソトオリヒメ自身が
語る物語だったなら。
 
道ならぬ恋に焦がれる男どもを中心にしていたなら。
 
佐知子の物語よりももっと魅力的になっただろうと思うのは、
私の勝手な想像だろうか。

前半は謎で強く惹きつけてくれるのに、ラスト近くは
予定調和に堕してしまう。そこが残念だった。