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読書の記録

北森鴻「瑠璃の契り 旗師・冬狐堂」

瑠璃の契り
瑠璃の契り2005.1文芸春秋\1,550

冬狐堂こと、陶子の物語。シリーズ第4弾
(これには陶子も登場する蓮丈那智シリーズは数えていない)
の今回も、芸術・美術の技と巧みにせまってくれて面白い。
 
「倣雛心中」十ヶ月に3度も返品された人形の謎を解く。
ここには、シリーズ某作でかつて披露されたネタが仕込まれて
いるが、さらに+αサプライズを加えることによりマンネリ化を
脱している。また、本作で陶子が目を病んでいることが明らかに
され、職業に即影響してしまう健康の不安をかかえつつも闘う
陶子がりりしく、そしていとおしい。硝子との友情も見所で、
女として生まれたからにはこのような、戦友のごとき女友達が
欲しいものだと憧れてしまう。
 
「苦い狐」若き日の陶子の芸術への想い。
二十一で夭折した級友の才能に打ちのめされる陶子が、
創作に携わるものにはリアルに感じられることと思う。
一流になりきれないのであれば、二流三流に甘んじるのか、
または創作者ではなく解説者になってお茶を濁すしかない
ものなので。全てを断絶出来るのであれば、はなから苦労は
しないであろうし。
 
「瑠璃の契り」美しい瑠璃色の切子硝子を見た硝子の様子がおかしく…。
硝子の過去もからめ、哀しい職人の命燃える作品。
 
「黒髪のクピド」陶子の元夫・プロフェッサーDが
行方不明になったという。探す陶子だが。
オチがややあっさりしてはいるが、こういう探求行は好みだ。
Dと陶子の関係は読めば読むほどわかるようでわからなく
なっていく気がするのは何故だろう。
 
…ミステリー味ふりかけて、旗師の腕の冴えを味わえる楽しい
1冊であった。
 
お酒が多数登場するなど、舌にも美味しいところは同著者の
「バー・香菜里屋シリーズ」にも似ているが、私はあまりバーの
シリーズは好きではない。どうしても、謎と謎解きに無理めな
印象がぬぐえないので…。高踏的な安楽椅子探偵だからそちらを
好きになれないのだろうか?
陶子は体をはる肉弾派探偵だからお気に入りなのだろうか?

p.s.陶子の病はたぶん後部硝子体剥離(もしくはなりかけ)
なんじゃないかと思うのだが、飛蚊症=コレとは限らない。
とは言っても症状があって心配な人(とくに近視の度が強い人)は
一度病院への受診をおすすめする。