貫井徳郎「愚行録」
誰もがうらやむような、恵まれた一家4人惨殺事件。
何故彼らはかように殺されなければならなかったのか?
殺された女性と大学が同じだったんで物語から離れて、某大学トリビア〜。
証言「女の子は男の学生に荷物を持ってもらえる」
…これ、ガセビアじゃないの?在学中の六年間、一度もそんなこたあ
なかったんですけど。ホントにそんな習慣あるんざますかね?
同学部の異性なんて、女の子じゃないと思われていたのかも。
そして「お昼ご飯は車で自由が丘」。これもどうなんだろ?
確かに、私も一度サークルの先輩の車でランチに行ったことは、ある。
ただしサークル新入生10人一緒、内部も外部もごったまぜで。
私の経験では、内部外部の意識は無かったな。ただすごい金持ちが
内部には多いなあとは思ったけれど。内部生ともふつうに話してたし。
私は干渉のきつい親や、学外&遠恋にかかりきりで学内にはあまり
目を向けてなかったので、もしかしたらどこかで作中のようなことも
あったかもしれないね。
「内部生にしかまわらない試験資料」
内部だけってのではないけれど、よほどお人好しの友人でもいない限り、
過去問はサークルに入らないと入手困難だった。あの頃ド田舎出身で
ボーッとしてた私にも非があるのかもだけど、こちらは友人と思ってた
サークルの同学年女性二人が、先輩からもらった過去問を私に
まわさず秘匿してたのはショックだったねえ。
先輩が、試験後に過去問が役立ったかどうか私にきかなかったら、
だし抜かれたことすら気付かなかった。あれで人は親切なばかりじゃ
ないことを学んだね。
閑話休題。
つい回想が長くなったが作品に戻ろう。
惨殺された一家の評判を訊いてまわる男の聞き込みと、
兄に思い出を語る女のパートが交互に進行していく。
その二つがどうなっていくのかは読んでいただくとして…。
リーダビリティはあれど、それほど意外な展開ではなかった。
丁寧すぎるほどはられた伏線により、おおかたの展開が予想出来て
しまうせいかもしれない。被害者のプロファイルを、
周囲のインタビューから創りあげていく過程はどうしても先行作である
桐野夏生「グロテスク」2003.6
にだぶってしまう。しかし、突っ走るあまり現実を突き抜けてオチた
あちらよりも、本作はぐっと現実よりだ。見る人によって現実と
思われる出来事が見え方を変える「藪の中」的展開ならば、
最後に被害者たち本人の内面をものぞかせてほしかったと思う、私は。
虐待を受ける兄弟の物語は、哀しいが月並みである。
むごくひどいことだが、これは虐待家庭の典型を引き写したかのようだ。
だからこのパートには、あまり独創性は感じられなかったように思える。
文句も言ったがエンタメとして楽しめる作品。
タイトルの意味は、それぞれ憎悪と執着によって現実を脳内で
歪めていく登場人物一人ひとりに当てはまるのだろう。