読書日記PNU屋

読書の記録

鹿島田真希「六〇〇〇度の愛」

オンライン書店ビーケーワン:六〇〇〇度の愛2005.6新潮社\1,470
 

美しい壊れた兄。兄を偏愛する母と妹。
妹は人妻となり平穏に暮らしていたが、非常ベルの音を契機に
憑かれたように長崎へ旅する…。
 
2005年現在で、この著者の本を読むのはまだ2冊目…えーと、
ごめんなさい。コレ私嫌いだわ。まあ私は本作と比較されるデュラス
さえ読んでいないので、まあそういうエンタメ重視人間の言うことだ
と思ってもらえればいい。
“読めてない”といわば言え、という姿勢で述べてみる。
 
純文学にはありがちなことだが、まずストーリーがあるようで無いので
楽しめない。ぼんやりした感じである。文章が美しいことは私も感じるが、
読んでいて面白いという気が全然しない。
 
そしてこれが好きになれぬ最大の理由なのだが、長崎と原爆という重い
モチーフをこのように一人の気ままな女性の性と重ね合わせるところに
嫌悪感がつのってしまう(ちなみに私の祖父は長崎で災禍にあったひとりだ)。

有閑マダムの気まぐれにあれを重ね合わせることは、
究極の個人主義というか、私の価値観からはとうてい受け入れがたいものだ。

湾岸戦争の空中戦をゲームのようできれい、というのと同じ想像力絶無の
幼児的感覚ではないか、それは。それにキノコ雲って美しいか??????
自分は絶対安全圏にありながら、人の不幸を味わうようでイヤだったのだ、私は。
文学的にはタブーにチャレンジという意味があったんだろうか?

ついでだが、私は本書における皮膚病の描き方も好きではない。
デリカシーがどうのなどと言ったら、本など書けないのかもしれないが。
 
「白バラ四姉妹殺人事件」の時もそうだったが、親子の愛憎描写はたいへん
うまい。だが、今回はヒロインが空虚なゆえに、それほど悲劇性が響いて
こないような気がした。終わり方も「白バラ〜」とどこか似た味わいで、
少々飽きがきた。ベッドシーンがエロくないのがすごいのかしら。
岩井志麻子のような情念やえぐみは全くなく、リアルを感じさせないしね…。
全てが自分の中で完結する自己満足を書いたんですかね?
少なくとも、本書に「愛」の存在は感じなかった。